飛躍的な進化を続けるAI(人工知能)やVR(仮想現実)といった技術は人間を幸せにするのか――。ドラえもんをつくることが夢のAI研究者の大澤正彦さん(27)と、AIやVRを使い「争いのない世界」の実現をめざす佐久間洋司さん(23)は、最新テクノロジーの分野で次世代を担う関東と関西の研究者です。大澤さんが「ドラえもんをつくる中で今の社会で不足している『思い合う心』を技術の力で補充していく」と語れば、佐久間さんは、これまで教育や宗教が期待されていた役割をテクノロジーが担っていく可能性に言及します。急速に進化するテクノロジーは、ともすれば我々を不安にさせますが、2人の言葉は科学技術の進化をどう捉え、どう活用すればいいのかについて、多くのヒントを与えてくれます。つながりや共感を深めるテクノロジーとは。2人が語り合いました。
拡大する大澤正彦さん(左)と佐久間洋司さんの「アバター」=東京・築地、越田省吾撮影。アバターの製作はPunch Entertainment Co., Ltd.
ドラえもんをつくる、その意味は
――それぞれの今の研究のテーマについて教えてください。
大澤 小学生のころからドラえもんをつくりたかった。僕が特につくりたいと思っているドラえもんの要素は、「四次元ポケット」や「地上から3ミリ浮いていること」ではありません。人が心地よく触れ合えたり、一人ひとりと向き合えたりする技術。ドラえもんはのび太とともに日々、当たり前のように生活しています。現在の人工物は人から遠い。人と関わり、社会とつながりながら育っていくことができる技術を開発しています。僕は児童ボランティアのサークルに入っていた時期もありますが、それもドラえもんづくりに役立っています。ドラえもんは社会の人々との関係や世界観を含めた存在だから、研究だけしていたら到底、つくれません。
おおさわ・まさひこ 1993年、福岡県八女市生まれ。慶応大理工学部の学生だった2014年、「全脳アーキテクチャ若手の会」を創設。17年には「認知科学若手の会」を設立し、代表を務める。慶応大院博士課程で、神経科学や認知科学の知見も参照し、AIの研究を行っている。初の著書『ドラえもんを本気でつくる』(PHP新書)が2月15日発売予定。
佐久間 僕のテーマは共感です。新海誠監督のアニメ映画「君の名は。」は、東京と地方の見知らぬ男女が、時間を超えて身体が入れ替わっていくうちに恋に落ちるというストーリーでした。入れ替わりの体験の中で双方が、相手だったらどう行動するのかを考える。共感のきっかけを得たことで、劇的な恋をすることになった――。そう考えている僕は、こういった経験をVRを使って実現することで、他者への共感をうながそうとしています。VR上で白人がアフリカ系の人になった経験をすると、差別的な態度が減少したという過去の研究もありますね。
さくま・ひろし 1996年、東京都豊島区生まれ。大阪大基礎工学部の4年生。大学1年からアンドロイド研究で知られる石黒浩教授の指導を受け、2年次にはトロント大に留学。AIやVRの技術を用いて共感などを研究。大阪府市設置の万博に関する有識者懇話会委員なども務める。
――非常に興味深いです。
大澤 最近ようやく、ドラえもん完成までの技術的なロードマップが見えてきました。人の言葉を話せないけれどコミュニケーションが取れる小型ロボットを完成させる。次にそのロボットを出発点とし、意思疎通のための言語を覚えさせていくというストーリーです。従来であれば最初から大人のAIをつくろうとしていたところを、赤ちゃんのAIをつくって、後から大人に育てていくイメージ。具体的には、言葉を話せない状態から、最初は「パパ」「ママ」などの単語の発話ができるようにする。次は、単語数を増やしていき、「パパ大好き」「ママ怖い」といったやりとりができるように成長させていく。現在は、ロボットのプロトタイプ(試作品)が出来上がった状態。研究を続けつつ、さらに今後より高品質なロボットに仕上げるために、チームや資金が回る仕組みを構想しています。言葉を話さないロボットの完成はそう遠くないと僕は、見ています。
佐久間 僕は自己から他者への共感に加えて、AIやVRの技術を使って自分自身のように振る舞う他者(ドッペルゲンガー)と出会うこともめざしています。まず、AIに僕のジェスチャーといった癖を学ばせ、僕の動きを生成できる分身のようなものをつくる。その分身にスキャンした僕の身体のアバターなどをまとわせることで、自分のように行動をする他者ができるというわけです。そのアバターと出会うことで、他者としての自己と対面し、共感できるようになれるのでは、と考えています。自己から自己への共感は内省のようなものですが、他者としての自己との出会いは「自己から他者」「他者から自己」という双方向の共感をうながすことができるかもしれない。この研究を通して、どのような体験が他者への優しさなどを生み出すかを探り、人間の意識に変化をもたらす機械ができないか。究極的には争いのない世界をつくりたいと考えています。
拡大する佐久間洋司さん=東京・築地、越田省吾撮影
「思い合う心」を技術で補充
――科学技術を活用して「人類を幸せにする」はお2人に共通する目的だと聞きました。
佐久間 現在でも誰かの心身を…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル